<< 本澤二郎の政治評論「日本経済(日経)新聞」:本澤二郎 | メイン | 私の視点・北からの便りNo.33:笠井真美子 >>
2007年12月20日
この一年・この一冊「ロシア闇の戦争」:片山通夫
先日、ロシアの下院選が終わった。大方の予測どおり、プーチン大統領率いる「統一ロシア」が圧勝した。実に64.3%を得票したと発表があったことは記憶に新しい。
一方、欧州連合(EU)の議長国ポルトガルは12月4日、2日に投票が行われたロシアの下院選について「国際基準を満たしておらず、また責任も果たされていない」とする声明を発表した。また「民主主義の基準が崩壊されようとしている状況を、欧州は容認すべきではない」とポーランドのドナルド・トゥスク首相はEUに要請した。
そして次期大統領をプーチン大統領が「指名」し、自らは首相に就任する考えを示した。プーチン大統領の院政という見方が大方の観測である。本稿では「プーチン時代の闇」にスポットをあてた衝撃の一冊を紹介したい。
「ロシア 闇の戦争」
アレクサンドル・リトヴィネンコ、ユーリー・フェリシチンスキー著
2007年6月 光文社 刊
本書はロシア国内では発禁である。
さて、そのプーチン大統領だが「黒いうわさ」がその周辺に絶えない。彼自身が治安組織の出身であることに加えて、大統領就任以後、側近に治安関係者を多く配して、大統領権限の強化に努めたという事実がある。
本書「ロシア闇の戦争」だが、プーチン大統領の前任、故エリツィン大統領は曲がりなりにも「ロシアの民主化」の方向へ国を引っ張ってこようとした。しかし旧KGB機関(ソ連時代)は民主化の影響が同機関に及ぶことを阻止することにあり、その方法が第一次チェチェン戦争だったと分析する。ソ連時代は共産党というコントローラーが存在してKGBの活動や暴走に対する歯止めがあった。ソ連崩壊後は、その歯止めがなくなったとも指摘する。
そして本書の主眼である第二次チェチェン戦争の後ろには旧KGB組織の陰謀があったと指摘している。本書の著者のひとり、アメリカ在住ロシア人で歴史学者のユーリー・フェリシチンスキー氏は「アレクサンドルは毒を盛られた。だから、この『序文』には私一人の著名しかない」と書いている。もうひとりの著者は、昨年英国で毒殺されたロシア元情報部員アレクサンドル・リトヴィネンコ氏である。彼はおそらくこの本を書いたために暗殺された。
周知のように、リトヴィネンコ氏は、ソ連国家保安委員会(KGB)、ロシア保安省(MB)、連邦防諜庁(FSK)、連邦保安庁(FSB)に在籍、当時飛ぶ鳥を落とす勢いのあった政商ベレゾフスキー氏らの暗殺命令を拒否したと98年に暴露会見し、FSBを追われて2000年英国に亡命していた。
本書は、プーチン大統領誕生前夜の第二次チェチェン戦争のまえに起こったエリツィン政権末期の一連のアパート爆破事件が「チェチェン武装勢力の仕業」だというのはでっち上げであり、チェチェン武装勢力犯人説を流布することによって、当時のプーチン首相の断固たるチェチェン報復攻撃に広範な国民の支持を集め、翌3月の大統領選でプーチン政権発足となったと解く。
今年、筆者が衝撃を受けた書物の中でも飛び切りの衝撃だったのが本書「ロシア闇の戦争」だった。ロシア人ジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤ氏も暗殺された。彼女の著書『ロシアン・ダイアリー-暗殺された女性記者の取材手帳』(日本放送出版協会、2007年6月)も読んだが、体制側にいた本書の著者の書く「闇の戦争」は衝撃的である。
2007年12月20日 08:05