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2007年12月25日
この1年、この1冊 吉田修一『悪人』:今西富幸
純文学に限っていえば、近年にない豊作の年だったと思う。
わたしの「今年の1冊」は、いうまでもなく「思考する読書」でも取り上げた吉田修一『悪人』(朝日新聞社)ということになる。
どこがすぐれているのかはもはや、ここでは詳述しないけれども、これが朝日新聞の連載小説であったことだけは特筆しておかなければならない。
思えば、明治時代、夏目漱石が新たなジャンルとして構築し、彼の作品の大半がそうであった新聞小説はそれから約1世紀の時を重ねたいま、残念ながら、著しくその地位を失墜させてしまっている。そうであるがゆえに、活字が読まれなくなって久しいこの冬の時代にあって、この稀有なる作品を「新聞小説の復権」という言質でもって大いに評価できることを、わたしは率直にうれしく思う次第である。
はからずも、幼少期に誘拐された「わたし」を大きな時間の流れのなかで描いて見せた角田光代『八日目の蝉』(中央公論新社)も、読売新聞の連載小説であった。「思考する読書」において取り上げた彼女の短編集『ロック母』(講談社)をわたしは最大限の賛辞でもって評価したのであるが、もちろん、この長編にもうならされてしまった。彼女がこれから、どのような変化を遂げていくのか。いま、もっとも目が離せない作家になりつつある。
ほかには、向田邦子の再来であるとわたしが勝手に解釈している恐るべき新人、朝倉かすみの『そんなはずない』(角川書店)、『好かれようとしない』(講談社)という否定形タイトルをもつこの2作、品性や倫理などというものとは無縁に、どこまでもみじめに人間の業を執拗に描き出し、私小説断筆宣言以来、その作風をいっきに堕落させてしまった車谷長吉に代わって、いまや全身私小説家になりつつある西村賢太『二度はゆけぬ町の地図』(角川書店)、エロマンガ島というバヌアツ共和国に実在するこの島にエロ漫画を読みに行くというあまりにもばかばかしい話をかくもナイーブな筆致で書き上げた長嶋有『エロマンガ島の三人』(エンターブレイン)、いま文句なしに面白い小説を書く、当代きっての小説家、辻原登『円朝芝居噺 夫婦幽霊』(講談社)を挙げておきたい。
最後に今年、「思考する読書」をほとんど更新することができなかったのは、ひとえにわたしの怠慢であって、ここにお詫び申し上げておきます。
2007年12月25日 16:03