2007年12月28日
この1年、この1冊 ダニエル・タメット『ぼくには数字が風景に見える』:三室 勇
どんなに賢いといっても、人の頭の違いなどチョボチョボさ。そう思って自分を慰めていた。しかし、違った。脳の働きがまるで違う人間がいることが、この本でわかった。これは驚きである。
最近の科学ニュースで、「現生人類の進化速度は太古の人類の100倍で進化しており、とりわけ1万年前の氷河期以降の進化はめざましく、それにより民族多様性が深まった」という記事をみた。これは国際的なゲノム研究プロジェクトのデータ解析を基に報告されたものだ。現代人に至る人類進化の速度は加速されているらしい。
ダニエル・タメットは高機能自閉症とされるアスペルガー症候群で、数学の天才など特殊な能力を示すサバン症候群でもあるイギリス青年だ。映画「レインマン」のモデル、キム・ピークと同じだ。しかし、キムは親の庇護なしには社会生活が営めないのにくらべ、ダニエルは社会生活が営める点で違っている。こうした障害をもつ多くは自立生活が困難なようだ。その点で“進化”している。果たして適切な表現かは別にして。
人間の能力の驚くべき可能性をダニエルは私たちに示している。その1つが短時間で言語の習得することだ。ダニエルは難しいといわれるアイスランド語を1週間でマスターして、テレビ番組でインタビューを受けて、冗談を交えてアイスランド語で話したという。その前に海外ボランティアでリトアニアに行き、リトアニア語を習得し、スペイン語、ルーマニア語、ウェールズ語など次々と覚えてしまう。すでに10カ国語を話すという。
カリフォルニア大学サンティアゴ校脳認知センターのラマチャンドラン博士は言語の共感覚について研究しており、人類が言語を習得する際に聴覚と視覚の共感覚が大きな一歩になったはずだと考えている。この共感覚とは、色をみると音が聞こえるとか、音が色や形になって見えるといったことだ。作曲家など芸術家の多くは強い共感覚を持っているようだ。宗教学者エリアーデの「宗教学概論」などで、世界のさまざまな宗教では、大地を母なる神とし、天空を男なる神とする共通イメージをもつことを確か述べていたと思う。それを不思議に思っていたが、人類共通の共感覚が働いているのかもしれない。
ダニエルは優れた共感覚保持者だ。彼は数字や計算を形として脳では処理していることを、この本で説明している。彼はπ(パイ)を22,500桁暗記しているが、それは絵柄としてイメージされているからだ。
ダニエルは障害をもつ弱い人間としてこの社会に登場し、受け入れた。しかし、彼は進化した次世代人類なのかもしれない。ダニエルのように言語の習得が簡単なら紛争は当事者同士の話し合いにより解決が図られよう。人間の可能性を開く驚くべき出来事として、この本を読んだ。
2007年12月28日 12:57