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2008年01月06日

片瀬五郎の京都発 10:片瀬五郎

萬福寺のメダカ 
ベランダで、メダカを飼っています。酸素がぶくぶく泡立つような立派な、ガラスの水槽ではありません。ただ甕に水を張って水草をすこし入れただけの、ささやかな住まい。水面から覗きこむしかないので、ガラス越しの生態観察など、望めません。

 メダカ飼育のことを先日、二十歳ほどの乙女に話しましたら、
「メダカって、大きくなったら、カエルになるんでしょう。」
まじめな顔でそういったのです。わたしは「えっ!」、驚きのあまり、絶句してしまいました。メダカは何年たっても、メダカです。
 妻がよく説教します。「あなたが若い娘さんと、話しがあうわけがありません」。なるほど、確かにその通りでした。
 メダカと同居をはじめたきっかけは、若冲です。彼のことを調べるために、何軒もの寺を訪れ、教えを乞うた。宇治の黄檗山萬福寺もそのひとつです。何度も、同寺の黄檗文化研究所を訪ねました。
 あるとき、文華殿の軒下に和尚がしゃがんでおられた。さて、何をしておられるのか。寄って覗きこむと、メダカが大きな鉢のなかにおる。黄赤色のヒメダカ。そして色の通りの名をもつ、クロメダカ、シロメダカ、アオメダカだと教えられました。みな色が違う。種別に棲家をかえて、雑種混血を防いでおられる。
 かわいいなと思ったのがきっかけで、近くのホームセンターでメダカを買い求めました。一匹十八円のヒメダカを十匹ほどまず連れ帰り、のちに値段が数倍もするクロメダカを数匹買い足しました。両者を同じ容器で育てていますので来春、暖かくなるころには、きっと混血児が産まれることでしょう。どのような色合いになるか、楽しみです。混血新種の名は、両親の名をとった姫黒メダカでは、あまりにも芸がない。「沖メダカ」にしようかと思っています。
 ところでオタマジャクシと思い込んでいる乙女ですが、誤解もいたしかたないと思います。この十年か、二十年か、あるいは三十年ほどでしょうか、メダカは小川にほとんど見当たりません。特に街中で育った若者は、メダカを目にしたことがなくとも不思議ではありません。
 小学生のとき、唱歌♪メダカの学校は川のなか~、きっと乙女も歌ったことでしょうが、口をパクパクする彼女の頭のなかには、オタマジャクシ♪が泳いでいたのです。
 わたしも、飼育メダカが多品種あることを知りませんでした。決して彼女を笑えたものではありません。つぎの休日には近所の図書館で、子ども向けの本『メダカずかん』をみることにしました。

 ところで、朝日新聞の天声人語を二十年近くも書き続けた荒垣秀雄さんの本に『メダカのいる川』がありますが、こう書いておられます。
 日本の自然を二十世紀初頭にもどせ、とかいうアピールをぶっつけてみたらどうだろうか。……ぐっと話を小粒にして「日本の川にメダカを返しましょう」と訴えたらどうか。メダカは針みたいにちっちゃな小魚だが、川にメダカが生息し繁殖するのには、それにふさわしい自然の生態系がととのわなければならぬという深い背景をうしろにせおっているのだから、よくよく考えてみれば、小さいどころか大きな問題なのだ。そして同書あとがきでは、
 「メダカという小さな魚、ずいぶん長いこと見たことがない。子どものころ、どんな小川にもうようよ泳いでいた。水面近くに群れをなして……。私の郷里飛騨の国ではハリメンコといった。メダカの名前の方言はわが国で約五千ほどあるそうで、これほどたくさんの名前を持った生物は他にあるまい。それほど日本じゅうどこにでもおり、みんなに親しまれていた証拠だろう。それが今や子どもに聞いてもあまり知らない。・・・・・・メダカや蛍のような小さな生き物もちゃんと生存できる、調和のとれた自然界の生態系をたもつことは、人間が生き延びていく道でもある。そんな願いをこめて『メダカのいる川』という書名にした。」
 荒垣さんの文章が発表されたのは、1980年のこと。三十年ほど前、日本のメダカは滅亡の危機にあったのです。若年者がメダカを知らないことを笑ってはいけない。笑われ責められるべきなのは、そのような危機をたいして意識することもなく、虚構の豊かさを追い求めて、メダカたちを死滅に追いやったわれわれ世代なのです。
 いままた、舶来の伝染病のために、カエルまでもが存亡の危機にあるといいます。オタマジャクシも、消えてしまうのでしょうか。そしてヒトも、だれもいなくなってしまう・・・・・・。(毎週日曜日掲載)

2008年01月06日 00:32

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