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2008年01月06日

日曜書評欄簡単レビュー;川瀬俊治

2005年7月から始まった日曜書評欄簡単レビュー、今年もよろしく。今年第1回目は毎日、朝日、日経3紙から(敬称略)。

 小説では大江健三郎の新作『臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ』(新潮社、1470円)ー毎日、日経ーが書評されているが、すでに本欄で紹介しているのでふれない。海外の翻訳本アラスター・グレイ『ラナーク』(図書刊行会、3500円)ー日経ーはスコットランドでは20世紀最大の小説とされる作品。副題は4巻からなる伝記とある。主人公ラナークは記憶をなくしてある都市(アンサンク)に到着。そこでの体験が鬼面人を驚かすものだ。3巻、4巻でこの物語が展開される。失業者があふれた荒廃した都市で恋をしたラナークは奇病にかかり、ポッカリと大地に口を明けた穴に飲み込まれる。地下世界での治療で自らの過去を教えてもらう。さらに地下世界の秘密を知り脱出・・・といった内容だが、評者は「ひと言で言えば、ウェルズがカフカ的悪夢世界をよりシュールに描いた寓話」と書く。1巻、2巻はラナークの失われた過去を描く自伝的教養成長物語。「メビウスの輪のようになって照応する二つの世界で説き明かされるのは愛と疎外」(評者)という。一気呵成に読ます。

 最近注目を集める川上未映子の『先端で、さすわさされるわそらええわ』(青土社、1300円)ー日経ーは一人語りの文体で描かれた短編集。独特な言葉づかい、奔放な文章ー作家としての必須条件である独自の文体をもつ。評者は女性のエロチックな身体感覚を大阪弁ふうの一人語りの文体で描くーと紹介している。

 源氏物語研究の河添房江が書いたのが『源氏物語と東アジア世界』(NHK出版、1160円)ー日経ーだ。学術論文集『源氏物語時空論』(東京大学出版)を一般向けに書き直した作品。源氏物語にあらわれているモノ、ヒトを手がかりにして当時の「国風文化」が国際色豊かであることを示した。当時の舶来品とは「唐物」のこと。瑠璃壷、黒豹の皮衣、沈香など。古典研究の新たな視角がわかりやすいかたちで読者の前に登場した。

 直木賞作家の乃南アサ随筆集『いのちの王国』(毎日新聞社、1680円)ー毎日ーは、全国18の動物園・水族館を巡り書かれたもの。生き物と誠実に向き合う人びとの発見の書であり、いのちといのちを動物の側も見ていると書く。いのちの発見ということではなく、いのちをめぐる人間と動物のドラマというべきか。

 柴田鉄治・外岡秀俊編『新聞記者ー疋田桂一郎とその仕事』(朝日選書、1260円)ー朝日ーは、02年に亡くなった朝日新聞記者の仕事を紹介した作品。「朝日の文体をつくった」とまで形容される名物記者。書評で引用された疋田の文章を孫引きすると、現代のジャーナリズムの警鐘ともなる。「日本の社会は何かあると雪崩現象を起こし、一方向に流れやすい。新聞はこれに待ったをかけることが大事」「ものごとをより多角的、多面的な鏡で乱反射させなければ、今日の読者は満足してくれない」。具体的な事例も紹介されており、警察の予断捜査を真に受けた報道の苦汁の反省の弁「このような事件報道が、人を何人殺してきたか」の引田の発言は、エリート行員が重度障害児の我が子を「餓死」させた罪で有罪判決を受けた事件の反省から生まれた。その行員はその後いのちを自ら絶った。後で知った供述書、公判記録などからみると予断捜査の発表を真に受けた報道の矛盾と限界が見えてくるのだ。

 社会科学関連では根井雅弘『ケインズとシューンペーター』(NTT出版、2310円)ー毎日ーが面白そうだ。異質な両者を総合化する試みである。新統合(イノベーション)がキーワードだ。ケインズは時局ごとに分析を発表そてきた。1930年代の不況に対して政府の積極的介入による需要創出を主張した。シューンペーターはこうみる。不況という現象はイノベーションによって引き起こされた経済動態に対する「適応過程」だとして、政府の介入は「適応過程」を妨げるとした。静観を決め込む。ケインズはこれを批判する。「静まるだろうというだけのことなら、経済学者の仕事とは、実に他愛もなく無用である」(評者紹介文より)。ナショナリストのケインズ、コスモポリタンのシューンペーター。著者によるケインズとシューンペーターのイノベーションは本書では完成せず次作に持ち越された評者は結ぶ。著者は両者の総合化した試みとして吉川洋『構造改革と日本経済』(岩波書店、2003年)をあげている。しかし意欲的なこの経済学者の試みに新たな経済学創出のチャレンジと賛辞を送りたい。

 元米国財務次官・国際担当の回顧録がジョン・B・テイラー『テロマネーを封鎖』(日経BP社、2200円)ー日経ーである。金融の舞台裏を知る興味そそられる書。原文を忠実に訳すと、「グローバルな金融戦士」である。いささか奇をてらう日本版タイトルともいえる。日銀が量的緩和政策を発表してから、日本財務省は前例のない大規模為替介入を行ったが、批判的だった米国政府も量的緩和政策支持から容認、日米間の財務担当者の協議が続けられた。こうした金融の裏舞台が著者の回顧録から知れる。グローバル経済は地球を覆う。「戦士」は政策立案と始動の大役を担う。

2008年01月06日 09:48

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