2008年05月29日
映写室 「ブレス」主演のチャン・チェンさん合同会見:犬塚芳美
―キム・ギドク作品に主演する台湾の国民的スター―
独特の作風で多くのファンを持つ韓国のキム・ギドク監督の新作が届きました。主演は人気実力ともに台湾ナンバーワンの、チャン・チェンさんです。以前映写室で取り上げた「呉清源」の端正な姿を思い出す方も多いのではないでしょうか。まだ寒い3月1日、大阪の映画祭に来日された折の合同会見を紹介します。
<その前に「ブレス」とはこんな作品> テレビが処刑間近の囚人チャン・ジン(チャン・チェン)が何度目かの自殺未遂をしたと報じる。偶然それを見たヨン(チア)は彼の絶望に自分の孤独を重ねて、会いに行くことを思いつく。恋人だと嘘をついて面会の許可を得ると、ヨンは面会の部屋の壁紙、服装、音楽等で演出して、彼に四季を届け始める。ヨンの訪れが生きがいになるチャン・ジン。でも夫はヨンの行動に不審を抱き、刑務所で同室のチャン・ジンの恋人も、嫉妬し始める。
<チャン・チェンさん合同会見>
会見は「こんにちは、チャン・チェンです。よろしくお願いします」と流暢な日本語で挨拶して下さって始まった。(以下は通訳付き)
―今回死刑囚役を引き受けたのはなぜか。しかも台詞のない役ですがそのメリットとデメリットを教えてください。
チャン・チェンさん(以下敬称略):キム・ギドク監督と一緒に仕事が出来ると喜んだのもありますが、この役を引き受けたのは脚本に惹かれたからです。台詞が無いのが面白いと思いました。台詞が無いと台詞がある以上に難易度が上がり、役を演じるのが難しいですから。初めてなので自分への挑戦です。この役は死刑囚でしかも喋れない、狭い場所で活動を限られて演じるのが面白かった。
―役へのアプローチはどうやって。この男の殺人動機をどう解釈されましたか。
チャン・チェン:キム・ギドク作品では登場人物の性格が大切です。僕が演じるのは殺人犯ですから、特殊な心理状態を再現するのが大切だと思いました。死刑囚の抑圧された感情を把握する為に心理学の医師を紹介してもらい、こんな人の心理状態はどんななのかを教えてもらって役作りをしています。このところの韓国の発展の状態とかも私の役作りには大切だったので、それも研究しました。殺人動機ですが、監督と話をしたのは観客に委ねようと言う事です。自分でもそのあたりは解釈をしないで演じている。ただそうは言っても自分なりの解釈はあります。映画で明らかにはされていませんが、この男は田舎で暮らしていて知的レベルは高いがブルーカラーの仕事をしていただろう。現実と理想のギャップに苦しんでいたのではと言う風に想像しました。
―チャン・ジンと言うのはチャン・チェンさんの韓国語読みでしょうか。自分の名前が死刑囚に使われる気持ちはどうですか。
チャン・チェン:作品が出来上がるまで自分の名前が使われている事に気がつかなかったんです。自分が出た刑務所の中のシーンでは名前でなくて番号で呼ばれますからね。
―短い撮影期間だったと伺いますが。
チャン・チェン:キム・ギドク監督は制作期間が短いのを売りにしてるので、監督に対する信頼がないと仕事が出来ません。僕の撮影は実質的には4日間です。現場に入るのはとても怖かった。プレッシャーが大きかったんです。でも結果的には撮影期間が短いのは良かったと思う。死刑囚を長い期間演じるのは役者としてとても辛いですから。
―監督はどんな方ですか。
チャン・チェン:キム・ギドクの今までの作品が暴力的だったり奇妙な人が多く出てくるので、監督自身も奇妙な人ではと思っていました。でも組んでみるととても優しかった。この作品は1月のソウルで撮ったのですが、刑務所のシーンなので暖房も無く大変寒い。カットになると監督が僕の足を擦ってくれたりしました。監督は映画を作る事に非常に熱心で、役者にもスタッフにも情熱をもって接してくれました。現場で演技指導してくれることが多かったです。
―怖いと思ったのが信頼に変わったのは何時頃からですか。
チャン・チェン:怖いと言うのは本人に対してではなく作品のイメージからです。本人を見るとそんなことはありません。あまり話さない方ですが笑いをとったり気を使ったりと、本人に接するといい人だなと信頼が生まれます。実はこの作品は監督から出演依頼の来た2作目で、1作目はスケジュールが合わなくて流れました。
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(c) 2007 KIM Ki-duk Film. All rights reserved.
―凄い監督とばかり仕事をしていますが、ご自身の意志もあるのですか。
チャン・チェン:幸運に恵まれて巨匠とばかり組んでいますが、僕が選んだのではなくたまたまで、そのチャンスを生かしてきました。色々な監督と仕事をして色々刺激を受けたのは宝物です。10代で出会ったエドワード・ヤン監督が映画への道を開いてくれました。ヤン監督に出会った頃はまだ若かったので怖いなあと思いましたが。よく走り回って叱られましたね。その後も色々な監督が映画への情熱を教えてくれました。それぞれの監督は似ている所もあるしまるで違う所もある。キム・ギドク監督は特に変わっています。日本の映画では去年の夏に公開になった行定勲監督の「遠くの空に消えた」(注・映写室でも紹介)に客演しました。
―日本の映画を観ますか。共演したい俳優さんがいれば教えてください。
チャン・チェン:ビデオやDVDでよく観ます。好きな俳優は加瀬亮、オダギリ・ジョー、浅野忠信さん等で、浅野さんとは多分次の作品で共演できます。
―日本語はお出来になるのでしょうか。
チャン・チェン:少しだけ出来ます。「呉清源」を撮っていた頃は大分上達していたのですが、時間たつので忘れてしまって。
―今回韓国の映画に出てどうでしたか。これから一緒に仕事をしたい国は。
チャン・チェン:ストーリーも役柄も相手役も良かったので、この作品に出れて幸せでした。韓国の映画に出るのは初めてではないのですが、この国のこの数年の発展は目覚しく、行く度に驚きます。彼らと一緒に仕事をしていて心地よかった。僕が住んでいるのは台北ですが、特に何処で仕事をしたいということはありません。俳優と言うのは受身なので全ての国からオファーが来て欲しいですね。
<会見後記:犬塚>
別の作品で来日中の台湾の映画スタッフがチャン・チェンさんの出演作を盛んに話題にしていて、本国での人気振りが伺えます。そんなカリスマ性や続けて2回重い役柄を見た後なので、どんな方だろうと緊張して待っていたら軽やかに登場されました。長身をカジュアルな服で包み笑顔の素敵ないかにも現代青年です。さて作品はそんなチャン・チェンさんと、韓国の誇る奇才、キム・ギドク監督のコラボレート。特殊な設定の主人公の心を「ブレス」という題名どおり、まるで呼吸するように伝えてきます。描き過ぎない手法が観客の想像力をかき立て、見事に監督の手中に落ちていました。主人公とヨンとの触合いを見守る意味深な設定で、監督自身も出演しています。ファンとしてはこちらも楽しみですね。
本作は5月31日(土)よりシネマート心斎橋、シネカノン神戸にて公開
順次京都シネマにて公開予定
2008年05月29日 05:00